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来ぬ人を待っている。
昨日夜具の中で、明日は雨かと考へた。
雨が降ればあの人は、この部屋に来るのに困るだらう。
雨が降れば来ぬ人を、私は待たなければならない。

日差しはゆっくり傾いて。
昼闇の時間になる頃に、凪いだ空は湿った風に変化する。
夜に備えて茉莉花(まりはな)は秘弁を濡らして発香する。
それに紛れて向こうから、微かにあの人の匂いがする。

あの人の微匂いは確かな足音になって、この部屋の階段を登るのだ。
湿った指がドアノブを回す時、私は今日も赦されたと思ふのだ。
画架の前に横たわる君を。
一筆ごとに梳き取って、硝酸紙(かみ)の中に写すのだ。
君の全てを梳き取れば、今日の全てが終わるのだ。

私はまた明日、赦されるだらうか。
夜具に埋もれて明日は雨にならぬかと、私は考えている



(C) Ikenaga Yasunari 池永康晟