Manami


083
「かくれんぼ・愛美」
cm xcm 2011
麻布/岩絵具/膠/墨/金泥/燻銀
sumi-ink. mineral pigments and hide-glue on linencanvas.


画架の前で君は、次第に不機嫌になった。
「私に会いに来ても、もう居ないの」君は呟いて、袖に指を通す。
「僕もこの部屋を引き払うんだ」そふ応えるのが精一杯だった。

新しい画室は雨ばかりが降った、「雨熱亭」と名付けたが冷たい雨だった。
私は雨垂ればかりを眺めている。

確かに君は姿を消した、一体何処に隠れたか。

雨垂れの向こうで、何かが爆ぜるのを見た。
追いかけて拾えば、楓の種だった。
鮮やかな鴇色の羽根を携えた、小さな種だ。
一寸ばかりの小さな鴇は、何処まで跳ねる積もりだったか。

私も君から姿を消した、遠くに上手く隠れたか。

雨粒は終わり無く降って、小さな種を爆ぜさせる。
見事な羽根の甲斐もなく、くるくる舞って地面に落ちる。
爆ぜては爆ぜては、くるくる舞って、無念に石の地面に落ちる。

君はまた、私を訪ねて来る、そふ思った。

君は何処に隠れたか、もう良いかい?
未だなのか。




079
「困る・愛美」
cm xcm 2011
麻布/岩絵具/膠/墨/金泥/燻銀
sumi-ink. mineral pigments and hide-glue on linencanvas.




079
「さよならを告げに・愛美」
cm xcm 2011
麻布/岩絵具/膠/墨/金泥/燻銀
sumi-ink. mineral pigments and hide-glue on linencanvas.




071
「糖菓子店の娘・愛美」
cm xcm 2010
麻布/岩絵具/膠/墨/金泥/燻銀
sumi-ink. mineral pigments and hide-glue on linencanvas.



「私の事描きたいって言ったの? 」。訊き返して女は眉を怪訝な形にした。
前後無く酔うて私は、初めて会うた女にそう懇願したのだった。
「それなら今ここで描いてみせて、それを見てから決めるわ」。
舗の奥から持ち出した粗末な紙と鉛筆を突き出して、女は私を睨める。
気の強い女だと思った。
「駄目なんだ、試されるのが苦手なんだ、だから私の部屋に来て欲しいんだ」。

三度目に会うた君は私の画架の前に横たわっている。
「私、明日から名前を違えるの」。始めてから君は上の空に呟いた。
私の言いつけた姿態を知らぬ風に、長い肢体をくねらせる。
「画描きさんの好きな名前をつけて、皆にその名前で私を呼ばせるの」。
どうしてそんな事を云ふ、私は曖昧に君を眺める。
「画描きさんの好きな名前で呼ばれたいの、ねえ私の事なんて呼びたい?」

「何て呼んだら良いのか解らない、いつだって試されるのが苦手なんだ」。




071
「糖菓子店の娘・愛美」
cm xcm 2010
麻布/岩絵具/膠/墨/金泥/燻銀
sumi-ink. mineral pigments and hide-glue on linencanvas.







(C) Ikenaga Yasunari 池永康晟